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仙台高等裁判所 昭和48年(ネ)97号 判決

控訴人

株式会社

梅村商店

右代表者

鈴木治郎

右訴訟代理人

細谷芳郎

被控訴人

遠藤俊二

外一名

主文

原判決を取り消す。

本件各訴をいずれも却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

現行法上会社経営に対する監督、是正の方法として、監査役制度並に裁制所選任による検査役制度が存するほか、個々の株主に対し、取締役にその作成、備置きが義務づけられた、財産目録、貸借対照表、営業報告書、損益計算書、準備金及び利益又は利息の配当に関する議案書類の閲覧、謄写の権利を付与したうえ、更に少数株主に対し、商法第二九三条ノ六所定の会計帳簿書類の閲覧、謄写の権利を付与した所以は、会社の経営に対し、最も強い利害関係を有する株主の地位の強化を図つたためであるが、反面これが濫用される惧れのあることを考慮して、同法はその権利行使の主体を発行済株式の総数の一〇の分一以上に当る株式を有する株主に制限し、且つ書面によつて閲覧、謄写の目的を具体的に記載することを要請しておるのであり、又同法第二九三条ノ七では、右請求が株主の権利の確保若しくは行使に関し調査をなすためでなく、又は会社の業務の運営若しくは株主共同の利益を害するためなされたものであるときなど同条所定の事由に該当すると認めるべき相当の理由がある場合は、取締役は、右請求を拒否することができるのである。

このように同法第二九三条ノ六が、企業の所有と経営の対立した利害得失を直接調整する機能をもつものであることに鑑み、株主が同条に基づき裁判上その請求権を行使する場合は、当事者双方に対し、攻撃、防禦方法を適正に行使させる上から、対象物を単に会計の帳簿及び書類と申立てるのみでは足らず、例えば何年度の如何なる帳簿及び書類であるかを具体的に特定する必要があるものと解するのが相当であり、このことは裁判の既判力、執行力の面からも当然に要請されるところである。これを本件についてみるに、被控訴人らは単に「控訴会社は被控訴人らに対し控訴会社の会計の帳簿及び書類を閲覧謄写させなければならない。」旨申し立てたのみで、その対象となる会計の帳簿及び書類を具体的に特定しないことは記録上明らかである。

そうすると、被控訴人らの本訴請求はその内容が不特定であるから、本件各訴は不適法として却下すべきである。

よつて、右と結論を異にする原判決を取り消し、本件各訴をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(三浦克已 伊藤俊光 佐藤貞二)

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